書き下し文)
ここに人あり。
その我を待つに横逆を以てすれば、則ち君子は必ず自ら反するなり。
我必ず不仁ならん。
必ず無礼ならん。
この物奚ぞ宜しく至るべけんや、と。
その自ら反して仁なり。
自ら反して礼あり。
その横逆由是くのごとくなるや、君子は必ず自ら反するなり。
我必ず不忠ならん、と。自ら反して忠なり。
その横逆由是くのごとくなるや、君子曰く、これ亦妄人なるのみ。
此くの如くあれば、則ち禽獣と奚ぞ択ばん。
禽獣に於いてまた何ぞ難ぜん、と
孟子 離婁章句
意訳)
ここに人がいる。
その人は、自分に、横暴で、理不尽なことをしてくる。
君子は、その人に対して行った、自らの行いを振り返ってみた。
私に、仁(思いやり)がなかったのではないか、
私が、礼(尽くすべき敬意)を失したのではないか、
でなければ、このような横暴で、理不尽なふるまいを、君子たる私が受けるわけがない。
君子は、その人に対して行った、自らの行いを振り返ってみた。
私は、仁(思いやり)もあったし、
私は、礼(尽くすべき敬意)も失ってもいない。
だが、さらに、
その人は、自分に横暴で、理不尽なふるまいをしてくるではないか。
次に、
君子は、その人に対して、忠(誠の心)ではなかったか、考えてみた。
でなければ、このような横暴で、理不尽なふるまいを、君子たる私が受けるわけがない。
私は、忠(誠の心)であった。
だが、さらに、
その人は、自分に横暴で、理不尽なふるまいをしてくるではないか。
こと、ここに至り、君子はいわれた。
この人は、頭がいかれており、狂気の人である。
この人は、人の皮を被った、人に害をなす獣、畜生の類いである。
人に害をなす、獣、畜生の類いであるのだから、
諸君、そのように処理するとしようではないか。
所感)
■不正、不義を憎む心
意訳が、本来の意味するところから、飛び跳ね過ぎた嫌いがある。
同学の諸先輩方からは、お叱りをいただくと、覚悟はしている。
本来の意は、仁、礼、忠の徳に関してであり、獣、畜生の類いを相手にするな、であるが、
自分の心の中にある、跳馬のような、世の中の不正、不義を憎む心が、意訳を飛び跳ねさせた。
自分の不徳の致すところ、に尽きる。