書き下し文❳
王子墊間いて曰く、
士は何をか事とする。
孟子曰く、
志を尚くす。
曰く、
何をか志を尚くすと謂う。
曰く、
仁義のみ。
一にても罪なきものを殺すは仁にあらず。
其の有にあらずして之を取るは義にあらず。
居悪くにか在る、仁是れなり。
路悪くにか在る、義是れなり。
仁に居り義に由れば、大人の事備わる。
孟子 尽心章句上
意訳)
斉の国の王子、墊が問う、
士とは、何をもって士というのか。
孟子はいわれた、
志を貴くすること。
王子、墊が問う、
志を貴くするとはどのようなことか。
孟子はいわれた、
仁、思いやりの心と、義、正しい道。
一人でも罪なき人を殺すのは、仁ではない。
己の物ではないのに奪うのは、義ではない。
士たる者、一身を置く所は仁、思いやりの心のみにある。
士たる者、一身が歩む道は義、正しい道にのみにある。
思いやりの心にその身を置き、正しい道をその身が歩めば、大人としての格、既にその身に備わる。
所感)
■貴き心
士とは何か、王子、墊の質問に答える孟子。
この場合の士とは、日本人なら武士であろうか。
あるいは身を国に捧げた国士、あるいは高き志をその身に抱いた志士。
ここでベタな立派な人、と意訳すると、孟子の意と異なる。
地位や名誉など後から付いてくるものであり、
苦しむ民を救い、仁政を行うという志こそ、最も貴いもの。
その貴い志の根源には、仁と義があるのみ。
王子、墊にとって、最も必要なものであり、
孟子の、仕えるを望んでも、終に適わなかった理想の君主像でもある。
今日、一日の読書を学問として、努め励みたい。