書き下し文)
孟子曰く、
其の為さざる所を為す所なく、
其の欲せざる所を欲することなし。
此く如きのみ、と。
尽心句章上
意訳)
孟子がいわれた。
人としてして、最高の行いとは、
·為してはならぬことを、為さず、
·欲してはならないことは、欲しない。
君子の道とは、詰まるところ、この二つに尽きる。
所感)
■二つの行い
原文は、わずか十七文字に過ぎない。
内容は、この二行のみ。意を反転すれば、
·行って善いことを、行い、
·欲して善いことを、欲する。
理屈からいえば簡単で子供でも理解できる。
だが文章だけ読めば、このわずか二行のことを人生において、いまだ続けて行えないのが私たちだ。
人であれば、生まれた時から備え持つ両親を思う当たり前の気持ち、相手の気持ちを思いやる心、
「あわれみの心」
この心を育んでいけば四端に通じ、やがては四徳に至る。
人として最高の行いにつながっていくと。
■四端四徳
○四端(惻隠、羞悪、辞譲、是非)
·あわれみの心(惻隠)
·善いことを行なわないことを、恥じと思い、憎む心(羞悪)
·お互いに譲り合う心(辞譲)
·善悪、を判断する心(是非)
○四徳(仁、義、礼、智の四徳)
·仁の徳の芽生えとは、人の不幸を見過ごせないあわれみの心。
·義の徳芽生えとは、自分の不善を恥じ、不善を憎む心。
·礼の徳の芽生えとは、譲り合う心。
·智の徳の芽生えとは、善し悪しを見分ける心。
■君子の道
いたって人として当たり前のことを述べている。
しかも人であれば皆行えることばかりだ。
·行ってはならぬことを、行わず、
·欲してはならないことは、欲しない。
短い端的な文章であるが、
四端、四徳につながる儒学の本質をついている。
■至らぬ我が身
率直な感として、この章の所感を書くのにたいそう苦しんだ。
この二行が、もはや呪いのように脳裏を巡る。
いつもの明るさが、心に戻ってこない。
〜しない、ことを、〜しない ✕2
否定型が4つ重なり、最後は君子の道だ。
至らぬ我が身にとって、君子の道とは、なんと近くて、なんと遠いことか。
我が身の学問の浅さをただ感ずるのみ。